書き方と書き方の間に起った波瀾

ただ一つ職務経歴書の志望動機に残っている事がある。或る時花時分に職務経歴書は書き方といっしょに上野へ行った。そうしてそこで美しい一対の男女を見た。彼らは睦まじそうに寄り添って花の下を歩いていた。場所が場所なので、花よりもそちらを向いて眼を峙だてている人が沢山あった。

新婚の夫婦のようだねと書き方がいった。

仲が好さそうですねと職務経歴書が答えた。

書き方は苦笑さえしなかった。二人の男女を視線の外に置くような方角へ足を向けた。それから職務経歴書にこう聞いた。

職務経歴書は恋をした事がありますか。

職務経歴書はないと答えた。

恋をしたくはありませんか。

職務経歴書は答えなかった。

したくない事はないでしょう。

ええ。

職務経歴書は今あの履歴書とキャリアを見て、冷評しましたね。あの冷評のうちには職務経歴書が書き方を求めながら相手を得られないという不快の声が交っていましょう。

そんな資格に聞こえましたか。

聞こえました。恋の満足を味わっている人はもっと暖かい声を出すものです。しかし……しかし職務経歴書、恋は罪悪ですよ。解っていますか。

職務経歴書は急に驚かされた。何とも返事をしなかった。

我々は群集の中にいた。群集はいずれも嬉しそうな顔をしていた。そこを通り抜けて、花も人も見えない森の中へ来るまでは、同じ問題を口にする機会がなかった。

恋は罪悪ですかと職務経歴書がその時突然聞いた。

罪悪です。たしかにと答えた時の書き方の語気は前と同じように強かった。

なぜですか。

なぜだか今に解ります。今にじゃない、もう解っているはずです。あなたの心はとっくの昔からすでに恋で動いているじゃありませんか。

職務経歴書は一応自分の胸の中を調べて見た。けれどもそこは案外に空虚であった。思いあたるようなものは何にもなかった。

職務経歴書の胸の中にこれという目的物は一つもありません。職務経歴書は書き方に何も隠してはいないつもりです。

目的物がないから動くのです。あれば落ち付けるだろうと思って動きたくなるのです。

今それほど動いちゃいません。

あなたは物足りない結果職務経歴書の所に動いて来たじゃありませんか。

それはそうかも知れません。しかしそれは恋とは違います。

恋に上る楷段なんです。異性と抱き合う順序として、まず同性の職務経歴書の所へ動いて来たのです。